4.平岩米吉氏と日本猫の保存
「その1」から3回に渡り日本猫の姿について整理してきましたが、平岩米吉氏は「猫の歴史と奇話」最終章で日本猫保存の窮状を訴えています。
明治維新の開国により欧米化が進む中で、犬に関してはすでに昭和3年に日本犬保存会が創立され、昭和6年以降には秋田犬など日本古来の犬が天然記念物に指定、昭和9年には平岩米吉氏と斎藤弘吉氏によってそのスタンダードが制定されました。
この本が出版されたのは1985年(昭和60年)ですが、当時すでに海外の純血猫の人気に押され、巷に放置された日本猫の危機的状況に警笛を鳴らし平岩米吉氏が日本猫のスタンダードを試案しました。
この定義をベースとして、1980年にフレンドリーキャットアソシエーション(FCA)が設立され設立25年後には6,500名の会員がいるとのこと。
※ただし残念ながらFCAのサイトは現在閉鎖されており、状況についてコンタクト中です。
平岩米吉氏が考えた日本猫のスタンダード
氏の定義は以下のとおり。
体型 | 中型で雄雌の表示がはっきりしている。 *1 *2 |
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被毛 | やわらかな短毛。 | |
顔 | 頬 | 丸みを持っていて張っている、いわゆる丸顔。*3 |
額 | 広い。 | |
顎 | しっかりしていて噛み合わせが正しい。 | |
口物 | 短くて突き出ていない。 | |
鼻 | 鼻すじが通っていて、やや広い。ストップはゆるやか。 | |
耳 | 鋭くとがらず、多少丸味がある。 | |
目 | 丸く、目尻少し上がる。目の色は自由。*4 | |
四肢 | しっかりしていて太い。趾(ポー)は丸型。*5 | |
尾 | 長、短、中の三形にわける。
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毛色 | 単色と斑と縞に分け、これを、さらに次の八種に細分する。
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啼声 | 澄んだ優美な声。*8 | |
禀性 | 活発で、且つ従順。*9 |
CFAのスタンダード内容と比べれば、一般人でも理解しやすい平易な記述になっています。
CFAの定義は完全にブリーダー向けであり形状や比率などの「厳密な仕様」ですが、我々日本人は古来から愛がん動物に対し、狭義な仕様を設けて統制する風習はあまりない訳ですから、日本人向けの内容と言えるのではないでしょうか。
また、この定義を見ると、アメリカン・ショートヘアのスタンダードと共通点が多いと言えます。鼻や顎の定義は少し異なりますが、前回のゲノム解析の記事でも書いたように祖先のルーツが同じということを考えると、あながちアメリカン・ショートヘアの人気は一時の流行ではなく、代々日本人の心理に刻まれた愛猫の姿とマッチしていたのかもしれません。
ところでこの試案は、1970年(昭和47年)3月、ジャパン・キャッテリー・クラブ(JCC)主催のキャットショーで日本猫を審査した平岩米吉氏がその感想を「キャット・ニュース」誌に掲載したのが契機となり、翌年1971年3月発行のJCC会誌に掲載されたものです。
折しも1968年、3匹の日本猫が初めてアメリカに渡り、1971年にジャパニーズ・ボブテイルという名でCFAのスタンダードとなった時期と重なります。氏は著書の中でアメリカにおいてジャパニーズ・ボブテイルがスタンダードとなったことに触れており、再三にわたり、日本猫の歴史は大半が長尾とともにあったことを強調して述べています。
その背景には、屈曲した尾骨による日本猫の短尾は動物として自然体とは言いがたいという氏の動物学的見地と、日本人と猫の歴史を知り尽くした結果、短尾だけが日本猫ではないという忠告が内在しているように思えます。
今回の4回でこの章は終わりにするつもりでしたが、猫カフェなどで日本猫/外国種の猫を見比べていると日本猫特有の性格がよくわかります。次回は「猫の歴史と奇話」から離れ、日本猫の性格について少し整理をしたいと思います。
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*1:日本猫は外国種に比し、概観で雌雄がよく判るので、特にこの項目を入れた。
*2:体高〈肩〉体長の比はだいたい判っているが、優秀猫の測定を経て後日確定したい。
*3:顔の長さは、およそ胴の長さの四分ノ一ぐらいである。
*4:目の色は、ある程度、体系や顔だちの特徴が固定されるまで、当分自由としたい。
*5:従来の猫の標準にはだいがい後肢が前肢より長いと書いてあるが、当然のことであるから除いた。
*6:長尾に屈曲や隆起のあるのはやはり欠点である。
短尾はたいがい醜く屈曲している。これをどう見るかはこんごの課題であろう。野生種のボブキャット(アメリカ産)の短尾は殆ど屈曲がない。
中尾は好ましくない。
*7:「虎」は赤の横縞。「雉」は青褐色の横縞。「雲形」はいわゆるタビー型で、稀にある。なお、ストップ以外は「虎」「雉」等すべて、日本の固有名を用いた。「黒」には「烏猫(からすねこ)」の古名がある。
*8:啼声は従来の猫の標準にはないが、日本猫の美点なので、一項目とした。
*9:「活発」を粗野な荒々しさと誤ってはならない。「従順」はいうまでもなく、あらゆる家畜に要求される要素である。