日蓮聖人入滅の地・池上本門寺

前回、猫的散歩をした上野 寛永寺は江戸時代とともに栄華の幕を閉じたわけですが、江戸総攻撃の寸前で西郷隆盛(新政府軍)・勝海舟旧幕府軍)との会談により大政奉還が決定します。会談の地に選ばれたのは、江戸時代の名デザイナー小堀遠州作の静かな庭園。
小堀遠州の名は知らなくとも、枯山水の庭園といえば、恐らく世界中の建築家だれもが知っている日本庭園の代表的な様式。小堀遠州南禅寺方丈の庭園桂離宮 松琴亭の庭園など、枯山水庭園を代表する作品を手がけています。
京都 龍安寺の石庭も究極のわびさびを感じさせるものですが、小堀遠州の庭は言うなればちょっとモダンな遊び心があります。彼の芸術感性は「綺麗さび」という言葉で表されていますが、自然美の中に直線の石畳を大胆に配置したり、一見平面に見える庭に勾配を設けスケール感を演出するなど、匠なデザインが随所に見られます。
今や押しも押されぬ建築家の安藤忠雄さんは、寺院などの日本建築の素晴らしさは「壮大なスケール感」にあると語っています。壮大なスケールというと、一見、ピラミッドやバチカンの大聖堂など巨大な建造物をイメージしてしまいますが、日本建築は限られた敷地の中でありながら、大自然や楼閣を目の当たりにしているかのような壮大な優美さがあります。枯山水の庭園しかり、平等院鳳凰堂しかり。
また、小堀遠州は建築家でもあった強みか、寺院の建築物と庭園が見事に調和して一体となっている点、そして縁側や踏み石などから眺める人間の視線を計算し尽くしてコントロールされた空間を造り出しています。言い替えると、設計図や俯瞰図を見て美しいと感じる建築物ではなく、その場に居る人にとって最も美しいと感じる造形であるということ。
彼は元は武将の出でありながら、建築家としては江戸城・二条城・名古屋城天守閣の築城を監修し、また徳川幕府の茶道指南役となり、後の世には彼の綺麗さびを継承した華道も発展するなど、江戸の美術に多大な影響を及ぼしました。
小堀遠州は恐らく、古くから伝承されてきた日本建築の真骨頂を、庭園にも盛り込みたかったのではないでしょうか。
安藤忠雄さんの建築物にも、同様に実際に目にすると思わず引き込まれるスケール感が感じられます。更に、(ル・コルビジエによって見出された)いつの時代でも色あせないプリミティブな造形(立方体、円柱など誰が見ても美しいと感じる造形)を積極的に取り入れ、見る人の心を魅了します。
個人的な見解ですが、安藤忠雄さんの建築物が更に素晴らしいのは、建築美だけでなく、そこに集う人々の視線と視線とが温かく交わるような拠り所がある点のように感じます。例えばマンションのように個々の住民同士は他人であっても、共に同じ中庭の樹を憩いの場として感じている、といった空間設計。それは、寺において、伽藍のどの場所にいても常に心の拠り所となるご本尊はひとところにある、といった空間にも通ずる気がします。
さて、少し脱線してしまいましたが、西郷隆盛勝海舟が会談した小堀遠州作の庭園とは、東京都大田区池上の古刹 本門寺(池上本門寺)奥庭に静かにたたずむ松濤園です。今も常時一般公開はされておらず、周りから容易に中を覗けません。(松濤園でのイベント時は公開、普段でも大堂脇の案内所に聞けば閲覧できる方法がわかります。)
西郷隆盛勝海舟は、喧噪から隔絶された、遥か遠くを望むかのような池泉の庭園を眺めながら、将来の日本を見つめていたのかもしれません。

池上本門寺の歴史

大政奉還の一舞台となった池上本門寺は、現在でも五重塔などの立派な伽藍を備えた大刹です。その所以は、日本史の教科書に必ず登場する日蓮聖人が永眠した場所であり、南無妙法蓮華経法華経日蓮宗)の大本山として今も篤い信仰の場となっているからでしょう。
1282年秋、日蓮聖人は病気療養のため身延山を降り常陸の湯治場へ向かう途中、法華経の信者であった鎌倉幕府奉行 池上氏の屋敷に立ち寄ります。そこで容態が悪化し終焉を悟った日蓮聖人はこの地で入滅を決意し、享年61歳でこの世を去りました。その後池上氏は屋敷周辺の広大な土地を寄進し、日蓮聖人の弟子の手により開山したのが始まりと言われています。
日蓮聖人は布教中にたびたび他宗などから迫害を受け、4度も流罪を受けましたが、その後関東の有力な武将たちが帰依し、江戸時代には徳川将軍家の大奥や紀州徳川家の庇護を受け繁栄します。初代紀州徳川家藩主 頼信の母で家康の側室であったお万の方、小堀遠州とともに江戸幕府の築城に携わった加藤清正、二代将軍秀忠の乳母 正心院らの信仰を受け、江戸から現在まで立派な堂塔が整備されてきました。

総門


戦災を免れた元禄時代作の玄関口

此経難持坂


玄関口にそびえる96段の石段は加藤清正による造営。良く見たら階段左下に三毛猫ちゃんが!(クリックで画像拡大)

日蓮聖人像


作者は上野の西郷さんと同じ北村西望さん

五重塔


創建400年が経ち関東最古の五重塔。正心院が秀忠の病気快復を祝って建立。

周りの墓所にはこんな看板も。そういえば春の甲子園力道山のお孫さんが活躍していましたね。
池上本門寺の霊園には加藤清正狩野探幽、お万の方など将軍の奥方も眠っています。

大堂


壮大な伽藍に佇む。建立当時の大堂は寛永寺の根本中堂にも劣らぬ規模だったという。昭和39年再建。

経蔵


1784年建立のもので第二次大戦の空襲から免れた

本殿


ご本尊の釈迦如来像胎内には、お釈迦様の舎利骨が納められているそう。各宗本山の五重塔仏舎利塔にはお釈迦様の舎利骨が納められているとよく聞きますが、ここの舎利骨は、上野動物園に象のインディラを寄贈したことで有名なインドのネルー首相から直々に贈られたとのことですから、正真正銘の釈迦如来像ですね。誰でもお賽銭箱越しに拝見できます。

松濤園

小堀遠州作の回遊式庭園


さてさて、本門寺では猫ちゃんと会えなんだと三門を出ると、向こうから沿道の真ん中に向かって猫が歩いてくるではありませんか!
いらっしゃい

着物がきれいニャ

まるで袈裟を着ているよう

さよなら

ずっと見送ってくれていました♪

本成院

本門寺への参道沿いにある小院

色とりどりの牡丹が見事

牡丹を見ていたら、門の上をひたひた歩く猫ちゃんを発見!
ニャンか用?
驚かせてすんませんm(_ _)m

本妙院


本成院の向かい。きれいに手入れされたお庭の小院。
最後に目にした、岡倉天心の言葉が印象的でした。

人間は花の美しさに気づいたことによって獣の状態から抜け出すことができた
岡倉天心

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